ハーバード大学 卒業式にて (受賞を受けに出席)
ハーバード大学 卒業式にて (受賞を受けに出席)

若い人達に ― 海外生活者の立場から

 

 私の60年の人生を振り返って、若い人に送りたい言葉を述べてみよう。 若い人達はこれから大きく発展するエネルギーを持っている。日本の次の時代は若い人々の手中にある。同時に、若い人達は未経験であり、適切な助言が望ましいことも事実である。 正しい助言があるかないかで、その人生に大きな差が生まれてくるだろう。そういう観点から、この小文が何かのお役に立つことを願っている。

 

 私は長い間米国で生活した。1964年にボストンのハーバード大学に行き大学院生活を送った。それを振り出しに、米国への永住権をもらって主任教授として勤務したこともある。あるいはニューヨークのマンハッタンにある国際連合本部に勤務し、国際外交の一面をのぞいたこともある。随分長い外国生活の体験をもとに参考になるようなことを書いてみたい。

 

 まず感じるのは、意外に思うかも知れないが、海外の人々の人情の細やかさである。米国の人々の本当の姿は郊外の住宅地に行かなければ分からない。そこには隣人との暖かい交際、見知らぬ人との暖かい応接、強い家族間の絆などがあり、それらには本当に感心させられる。たとえば通りがかりの見知らぬ人達が、皆「おはよう」と言ってニッコリして通って行く。隣の家との間の垣根や塀は、作れば失礼になるので作らないのが礼儀である。もし作る場合は、塀の表側は隣家に、裏側は自分の家の方に向けるのがエチケットである。

 

 新しく引っ越して来る人があれば、隣人達が“May I help you ?”「何かお手伝いすることはありませんか。」と集まって来る。週末になると簡素なパーティーがあちこちで開かれ、夫婦同伴で種々の話に、手作りの料理のもてなしに楽しい時を過ごす。

 

 一般に日本人は、身内や特定の仲間に限って親切である傾向があり、またどちらかというとギスギスした生活を送っている?のではなかろうか。もっと心を開き、皆さんのこれからの長い人生を、潤いのあるものにするよう心がけられると良いように思う。それにつけても家庭は重要である。良い伴侶を得て、良い家庭を作ることが幸せな人生をもつ基本となろう。

 

 世界のどんな国にも興亡がある。国が盛んになって行く時もあれば、残念ながら衰えて聞く時もある。米国について言えばその隆盛は、第一次世界大戦後に始まった。戦争で疲弊したヨーロッパに代わって、世界のトップの国々の一つとなった。さらに第二次世界大戦後の米国の隆盛には目を見張るものがあった。1人当りの国民所得は、日本の10倍、いや100倍位はあっただろう。

 

 それに引きかえ、米国には現在種々の問題があり、残念ながら、昔日の面影はない。その原因は何かと言うと、端的に言えばモラルの荒廃である。不思議なことに、繁栄はモラルの衰退を招き易い。つまり勤労意欲の減退、特に体を使う、あるいは汚い仕事を敬遠する、自己中心的な考えと行動、性的な放縦さ、家庭の崩壊、犯罪の増加などである。あまりに恵まれた生活をしていると、当然のことかもしれないが働く意欲が減少する。また自己中心的な思考と行動をするようにもなるが、それでは秩序ある社会を維持することは難しい。

 

 性的な放縦さは家庭の崩壊を招きやすい。離婚が激増し、父親か母親か、片親のいない家庭が多くなる。それは子供の非行につながりやすい。現在のエイズの大流行には、性的な放縦さも大きな要因として関与している。

 

米国西海岸の有名な研究所の所長と話していると、ある地域の同性愛の人達は、ほとんどがエイズに感染し、やがて全滅するのではないかと予測していた。こういう状態では、国の活力は非常に低下して行く。日本の若い人達は、豊かさの中にどっぷり浸って成長してきているが、豊かさの中にあっても“モラルの喪失”を経験することなく、健全に生きて行って欲しいと強く願うものである。

 

 20世紀も残り僅かとなった。21世紀はどういう時代を迎えるのだろうか。どんな時代が来るかは、若い世代の人々にかかっている。心を豊かに生活は堅実に、そして自然と環境を大切に生きて行って頂きたいと願っている。